東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2896号 判決
本件決議(基本部分)で定めた資金の賦課、徴収の方法によると、組合員の中で勤務年数の長い者程積立金の額が多いからそれだけ多数の福祉事業資金を負担することとなる上、組合員が出向等により休職となった場合、生活資金積立金は全額払い戻されることになる(この出向に伴う払戻しに関する事実は当事者間に争いがなく、当審における≪証拠≫によれば、右払戻しは組合脱退を前提とするものであることが認められる)結果、その者が復職した場合、その者と勤続年数、給与、組合費等が同額で出向経歴のない者との間に生活資金積立額に差ができるので、福祉事業資金の負担額にも差が生ずることとなるのは明らかなところであり、また、現実においても、≪証拠≫綜合すると、勤務年限の長短に基づく生活資金積立金の多寡が福祉事業資金の負担に与える影響は別表一の如きものであることが認められ、且つ、出向により休職した後復帰した組合員について被控訴人組合北九州支部における例をみると別表二のとおりの状況であることは当事者間に争いがない(但し、出向開始日を除く)ところである。そして右の例でみる限り、作業職一八才入社の基準モデル(別表一上欄参照)で、勤続一年の者と同三五年の者とでは、福祉事業資金の負担額(すなわち生活資金積立金の利息)は、一か月金額にして六九六円の差、率にして約一〇・七倍となり、専門補佐職(大学卒)のモデル(別表一下欄参照)では、勤続一年の者と同一〇年の者との福祉事業資金負担額の差は、一か月金額にして四六三円、率にして約七・四倍となること、前記北九州支部における例(別表二参照)で、出向経歴のある社員とそうでない社員との比較では、最大差額金は一か月七六八円、最大比率では一二八倍となることが計数上明らかである。然も出向によって休職となった経歴のある組合員は、京浜支部において四〇名以上、千葉支部において四五名、船橋支部において六名、尼崎支部において九名であることは当事者間に争いがなく、≪証拠≫によれば、今後も訴外会社の方針により相当数の組合員が休職出向のうえ復職する予定であることが認められるので(右認定を妨げる証拠はない)、右のような負担額の差は、かなりの数の組合員間において生ずる可能性のあることは十分予測できるところである。
然しながら翻ってこれをみるに、被控訴人組合の福祉事業制度のもとにおいて、単に受益の機会が均等であることから、負担もまた均等でなければならないとすれば、それはあまりに形式的、機械的に過ぎるものであって、賛同し難く、むしろ各個の組合員のおかれている状態に即応して資金負担を配分するのが相当である。ところで、組合員のおかれている状態は一律でないため、右配分は必然的に資金負担の区別を伴うものであるが、当該区別が資金賦課の対象(各人の財源)の価額を標準として差を設けるなど一般に妥当する社会観念に適合し、合理的なものと認められる限り、平等原則には違背しないというべきである。本件において、(一)勤続年数の長短及び出向経歴の有無による福祉事業資金の負担差は、結局のところ生活資金積立金より発生する所得(利子)の金額の差に基くものに外ならないものというべきところ、被控訴人組合においては、組合費の負担については≪証拠≫の施行細則によって認められるように、訴外会社より支給される基本給によって差を設ける方法を採用しているから、いきおい勤続年数が長い者は、その受ける給与も増加する関係で組合費の負担額も増加する仕組みとなっており、これは所得の多い者がより多額の組合費を負担するという思想がその根底にあるものというべく、組合費負担についてのかかる方法は、我国の多くの労働組合において採用され、(すなわち、本給の二ないし三パーセントというように比率をきめるもの、本給を何階級かに区分して、その本給階級ごとに金額をきめるなどさまざまである)組合員全員に同額の負担をさせる方法よりもむしろ社会観念上相当なものとして評価、容認されていることは顕著な事実であり、本件福祉事業資金の負担方法も右と同一の思想に立脚するものであって、充分に合理性を有するものということができよう。なる程、勤務年数の長短による福祉事業資金の負担額の差は、前示認定のように、倍率でいえば最大で約一〇倍であるけれども、金額的には最大限六九六円であり、出向経歴のある社員とそうでない社員の福祉事業資金の負担額の差も倍率でいえば一二八倍であるけれども、金額的には最大限七六八円であり、被控訴人組合の組合員の個人収入(別表一及び二によると、訴外会社より受ける給与は、最も低い一八才入社の者(高校卒)の初任給で九万八四六八円、二二才入社の者(大学卒)の初任給で一二万三三四四円である)に比べると、極めて僅少な額であって、これを是正しなければ著しく社会正義に反し公序良俗に違反するものであるということはできない。このうち、出向経歴のある組合員のように、改めて新規に相互扶助団体としての組合に加入した者は、たとえ従来から引続き組合に加入している者と勤務年数、給与、組合費が同額であったとしても、これをあくまで新規の組合員として遇し、福祉事業資金の負担もその者が改めて積立を開始した生活資金積立金の利息によらしめても不可はないものというべきであり、控訴人ら主張のように両者の負担額の差を単純に数学的に比較して不平等であるとするのは失当すべきである。
訴外会社では事務職の基本給は作業職の基本給よりも高いため、組合費については、同一勤務年数者では後者の負担が重いが、生活資金積立金は定額であるから、その利息を福祉事業資金に充てるときは、相対的に作業職の方が負担が重くなる結果となることは、当事者間に争いがない。控訴人らはそのことを不平等であると主張するが、作業職の方に重いという負担の具体的実情が定かでないのみならず、右主張の前提をなす、事務職の方に重い組合費とあるべき福祉事業資金負担額とが同一もしくは近似の比率で賦課されなければならないとの立論の合理的根拠も見出せないから、右主張も採用するに由ない。
以上の次第で、本件大会決議(基本部分)が組合員平等の原則に違反する旨の控訴人らの主張は理由がないといわなければならない。従って、右決議に伴う本件大会決議(規約等改正部分)についても、控訴人主張の瑕疵があるものとは認められない。
(蕪山 浅香 安國)